江戸川乱歩が自動車の騒音に耐えかねて、わずか1年ほどしか住まわなかった芝車町の家から静穏な池袋に移ってきたのは1934年(昭和9年)、本人が間もなく40歳を迎えようという時のことである。
それまで46回も引っ越しを繰り返し、定住ということを拒否していたかのような祖父だったが、増えすぎた家財や書籍で引っ越そうにもできなかったのか、土蔵という収納スペースが魅力だったのか、それとも池袋という土地が気に入ったのか、本当の理由は解らないとはいえ、以後一転して1965年(昭和40年)に亡くなるまで、ここを動くことはなかった。
立教大学法学部卒 平井 憲太郎氏(江戸川乱歩氏のお孫さん)が
雑誌「立教」(第187号掲載)に書かれた文章の一部を引用し加筆しました。